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コラム:ATD研究レポート「学習評価と効果測定の未来:スキル向上と課題への対処」

  • 執筆者の写真: ATD-IMNJ広報
    ATD-IMNJ広報
  • 10月6日
  • 読了時間: 5分
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ATDは毎年いくつかの研究レポートを発表しています。

2026年度の研究テーマには、フロントライン従業員の研修、パフォーマンス管理、ナレッジマネジメント、学習評価と効果測定、マイクロラーニング、AI活用による学習コンテンツ作成、ラーニングテクノロジー、チェンジマネジメントなどがあがっています。


このうち、今年4月に発表された研究レポートThe Future of Evaluating Learning and Measuring Impact: Improving Skills and Addressing Challenges(学習評価と効果測定の未来:スキル向上と課題への対処)の内容を抜粋して紹介しようと思います。ATDは「評価と効果測定」について数年おきに定点観測のレポートを出していますが、これはその最新版になります。


調査は2024年10月に277名の多様な業界の人材開発プロフェッショナルを対象として行われました。

評価と効果測定を高いレベルで実践している組織は16%


本レポートでは評価と効果測定における組織の習熟度を3つの条件を満たしていることとしています。

✅ 学習プログラムの効果測定

✅ 学習プログラムの効果を内部・外部ステークホルダーに伝達

✅ 学習プログラムデータをビジネス意思決定に使用

そして、これらの条件すべてを高いレベルで満たしていると答えた組織は16%にとどまっています。詳細をみると、54%の組織が研修効果をステークホルダーに伝達することは「得意」と回答していますが、学習データをビジネス意思決定に活用できているとする組織は31%にすぎず、さらに「優秀」と評価したのはたった4%です。

現状では多くの企業が「測定のための測定」に留まっており、真の価値創出に至っていない現実がうかがえます。


測定・評価における組織の自己評価

質問:以下の分野における自組織の能力をどのように評価しますか?

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目標の整合性が成功の鍵

43%の組織が学習目標とビジネス目標が「非常に整合している」と回答しました。そして、この整合性の高い組織ほど「ステークホルダーへの効果伝達」も「学習データのビジネス活用」も高い傾向がありました。これは、研修を単体で考えるのではなく、経営戦略との連動をはかることが価値創出につながることを示しています。


2. データ収集の現状と課題もっとも成功しているのは「研修プロセスの強み弱みの特定」。もっとも困難なのは「コストと効果の比較」

組織としての研修評価への取り組みの現状についてみていきましょう。

 

評価取り組みの成功度

質問:以下の学習目標と目的を達成する上で、あなたの組織の評価取り組みはどの程度成功していますか?

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 これを見ると多くの組織は「研修プロセスの強みと弱みの特定」についてはうまくやれているものの、「学習プログラムのコストと効果を比較」することについてはあまりうまくやれていません。レポートでは、「この種の評価は通常、研修による行動変容に関するデータを必要としますが、多くの組織はこのデータを収集していません。」としています。

 

多くの組織はレベル1,2の測定にとどまる

これを裏付けるように、評価指標の使用率についての回答は次のようになっています。


評価指標の使用状況

質問:あなたの組織は学習プログラムを評価するために以下の指標をどの程度使用していますか?

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もっとも使用率が高い指標は「参加者・ユーザーの反応(88%)」であり、これは有名なカークパトリックモデルでいう「レベル1(反応)」の測定にあたります。「レベル2(学習)」の測定は「知識・スキルの習得」にあたりますが、こちらは60%と使用率はやや低下します。そして、「レベル3(行動)」の使用はさらに42%にまで下がります。


課題は研修とパフォーマンスの因果関係の特定とリソース不足

評価を実施するうえでの課題として最上位にあがったのは「研修の効果を結果から分離することの困難さ(54%)」で、多くの企業が実際のパフォーマンスと研修との因果関係を特定することに苦労していることがうかがえます。2位の「リソース不足(51%)」は効果測定が実際には一定期間にわたる情報収集と分析をともなうパワーのかかる作業であり、かつ専門性を求められる活動であることを物語っています。


評価を実施している組織の課題

質問:学習プログラムの評価を実施する際の最大の課題は何ですか?

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81%がAI活用にポジティブ

ほとんどの組織はAIが効果測定にポジティブな影響を与えると考えています。AIに対する期待としては、「評価・報告プロセスの簡素化」、「時間短縮」、「学習パフォーマンス指標の収集・分析能力向上」、「よりリアルタイムなフィードバック」、「予測分析の向上」が上がっており前述のリソース不足をAIが解決してくれる可能性への期待がうかがえます。


人工知能(AI)の影響

質問:今後2年間で、人工知能は学習プログラムの測定・評価にどのような影響を与えると思いますか?

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おわりに

トレーニングの評価と効果測定は人材開発の専門スキルの一つですが、しばしば苦労する分野でもあります。ATDの調査では人材開発の専門家のうちこの分野に「習熟している」と答えた人は40%にとどまっています。また、87%が、今後5年間でこの分野にスキルギャップが生じるだろうと予測しています。個人的に驚いたのは、「学習プログラムの評価を担当する専任スタッフを持つ」組織が45%もあるということです。

人材開発担当者がビジネスパートナーとなるうえで、測定・評価のスキルアップは不可欠です。日本においてもそのニーズは高まっていくでしょう。ATD-MNJでも引き続き情報提供につとめてまいりたいと思います。


文:ATD-MNJ理事 嶋村伸明

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