Learning DX Study Group 2024年度活動レポート
- ATD-IMNJ広報
- 6月29日
- 読了時間: 10分

当スタディーグループでは、人事担当部門(HR)や人材開発担当部門(L&D)の実務をこなすときに活用しているITツール、テクノロジーの事例を収集・分析し、そこから見える実務で効果的に応用できるノウハウを抽出、蓄積し、近い将来、HRとL&D、そして、現場の学びがどのような姿を目指すべきかを描いたり課題を見つけたりしていくことを主眼に置いて活動しています。
以下は当スタディーグループの2024年度の活動報告です。
2024年度はどんな年だった?
ChatGPTをはじめとして、2023年に「生成AI」の言葉自体が日本でもあっという間に広まった年でした。とにかく幅広い分野でサービス、アプリに生成AIツールが組み込まれ、また、スマホを利用してる人も気付かずにインストールされているGemini(Googleの生成AIアシスタント)を自然と使うようになった方も多いでしょう。
仕事では、手始めに議事録作成、翻訳ツールと、簡単な作業を生成AIに依頼しているのではないでしょうか?
HRやL&D業界にAIソリューションが続々登場!
Learning Technologies2024に参加してきました。
特に、AIソリューションが格段に増えていたことに驚きました。AIを使うかどうかの検討ではなく、AIを使用しているのが当たり前というか、使用していないと競争力がなくなってきているのだと感じました。適用範囲も、コンテンツの制作関連だけでなく、従業員支援の分野にも活用され始めてきていました。
一番わかりやすいのは、AI動画ソリューションです。これは、アバターがプレゼンをする動画を作成できるものです。テキスト文章を入力するとアバターがプレゼンをしてくれるというものです。以前からSynthesia社が取り組んでいましたが、AI技術が広まったからなのか、同様のサービスが7-8社ほど出展していました。要素技術の差はあまりないためか、ぱっと見たところでは、違いがわからないほどの出来栄えでした。これはソリューションを選択するときの目利きが大変だと再認識しました。
他には、AIコーチソリューションも増えてきていました。従来からあるチャットボットのコーチングソリューションにAI技術が適用されてきていました。よりパーソナライズされ、効果的なコーチングが受けられるようになってきています。さらに、コーチング単体でのソリューションだけではありませんでした。LMS/LXPソリューションの中に、AIコーチを利用できるものが出てきていました。学習前に、次のキャリアへの相談やどのスキルを学ぶのが良いかという相談をAIにすることで、必要なスキルや学習コースなどをお勧めしてくれたりします。
今後の企業内教育の在り方への可能性を強く感じました。
バックグラウンドの処理としては、スキルの分類や関連性などについてAIを活用しているという話も聞けました。Excelで管理している状況から、もっとダイナミックにスキルを管理できるようになっていくことになるのでしょう。
L&D部門のメンバーも率先してAIスキルを身に着ける必要があると実感したカンファレンスでした。それが無いとソリューションの選択はおろか、これからの人材開発についても計画することができなくなる時代になってきているのではないでしょうか。
AIへの不信感を下げる
サービスのリリースが活発化していても、HRやL&Dでなかなか生成AIが普及されない傾向に注目し、利用者側のAIへの不信感があると想定し、利用者側のハードルを下げることを目的に、実際にChatGPTを使ったコース開発を実践しました。
ChatGPT作セキュリティ強化コースとパワハラ防止コース開発
インストラクショナルデザインを少し意識し、以下の通り作成してみました。
1. 対象受講者(企業)を設定
2. コースの目的、ゴール、作成にいたる背景の設定
3. 学習時間の設定
4. コース概要、コースの構成の作成依頼(プロンプト指示)
5. 各章の内容作成依頼(プロンプト指示)
6. 内容が浅いもの、明らかに間違っているものに対して、要件を加える依頼(プロンプト指示)
7. テスト作成依頼(プロンプト指示)
8. アンケート作成依頼(プロンプト指示)
9. owerPointへの展開を依頼(プロンプト指示)
対象受講者(ペルソナ)を具体的に設定することは重要です。ここが曖昧だと、受講者を無視したコースをChatGPTが勝手に作り上げてしまいます。また、ChatGPTが適切でないアウトプットが出てきた場合には、根気よく何がどう適切でないのか、フィードバックをする必要があります。
結果として、そこその品質で、2時間ぐらいで、作成完了しました。
テストも、求めるものによって、難易度の高低を指示した問題を作成してくれます。超難問も作成することもできます。
とにかく、対話が大事です(笑)。
ただ、ChatGPTの創り出したアウトプットを見ながら各自が意見を出し合う、議論するといった開発環境自体がよいな、と思われました。誰もが、まじめに(辛辣に)意見を出し合えるのです。相手は、ChatGPTなので(笑)。
課題は2点です。
Power Pointへの展開は、残念ながら期待されたものではありませんでした。一気に作成することはできず、章ごとにファイルを作成する必要がありました。また、内容にあったイメージを作成してもらうのは、まだ、難しいようです。(当時。もしかしたら、今ならもっと優れたものが出てくるかもしれません)
コースを開発する際に、内容の精査が必要です。当然、コース品質を担保するために、開発する分野を熟知しているメンバ(SME)が必須となります。



ChatGPTを活かす鍵はプロンプト設計 ― 思いつき指示が生む失敗と、その回避法
ChatGPTでコースを開発しようとすると、コース名をざっと入力するだけでも「それっぽい」内容を自動で生成してくれます。
しかし、「なんとなくそれっぽい」だけでは、現場では使えない。そんな経験はありませんか?
AIを実務で本当に役立つツールにするには、ただ聞くだけでなく、“どう指示を出すか”がカギです。そこで、現場で“今日から使える”コースを作るためのプロンプト設計のポイントをまとめました。
その前提として、ChatGPTで学習コースを開発する際には、次のような特性(弱点)を理解しておくことが大切です。
ChatGPTの弱点(特性)
→ 一貫した学習構造を保持するのが苦手
セッション全体の流れや目的に基づいた整合的な構成を自動で維持するのは難しい
→ バラバラに与えた情報の統合が難しい
断片的な指示の整合性や連続性をChatGPT側が判断・接続するのは不得意
→ 指示の優先順位を理解しない
人間のように「重要なことから順に組み立てる」思考はできないため、 指示は順序立てて出す必要がある
これらの特性を無視して進めると、次のようなコースが生まれやすくなります:
✖ セッション1とセッション2で同じトピックを重複して扱ってしまう
✖ クイズが内容と一致していない(未説明のトピックが出題される/重要内容が問われない)
✖ コースの目的や対象レベルに合わない内容が展開される
これらを防ぐには、通常のコース開発と同様にInstructional Design(ID)の流れに沿って段階的かつ構造的に情報を与えるとスムースに。
① ニーズと対象の定義
・学習者は誰か(職種・経験・スキルレベル)
・何を達成させたいか(組織課題、業務上の必要性)
・学習形式や制約条件(eラーニング/集合研修/学習時間)
👍ChatGPTへの指示例:
「〇〇の業務に携わる初任者向けに□□スキルを身につけさせたい。背景には△△という課題がある。Eラーニング形式で、1セッションあたり○分程度。」
② コースの目的と学習ゴール設計
・コース全体の狙い(どんな変化・成果を期待するか)
・セッションごとの学習目標(行動ベースで定義)
👍ChatGPTへの指示例:
「各セッションの学習目標をBloomのタクソノミーに基づき設定してください。目標の達成レベルは○○評価モデルの××レベルとします。」
※これを省くと: クイズの妥当性が損なわれる/内容の深さが合わない/学習効果を測れなくなる
③ コース全体構成とセッション設計
・セッションの流れ・順序(どんな順で何を教えるか)
・各セッションの役割(導入/展開/まとめ)
👍ChatGPTへの指示例:
「全体4セッション構成とし、1セッションにつき1つの主要トピックを扱います。セッション1では“なぜこのテーマが重要か”を扱い、セッション2以降で具体的な知識・行動につなげてください。」
※これが曖昧だと:セッションの意図が見えず、流れがバラバラになる/前後のつながりや納得感が失われる
④ 各セッションの詳細化(ナレーション・資料・クイズ等)
・スライド構成とナレーションの展開
・クイズや図解、視覚要素の指示
👍ChatGPTへの指示例:
「ナレーショントンマナは親しみやすくも専門性を失わないように。1スライドのナレーションは1分以内。図解の構成(要素・流れ)をテキストで説明せよ。」
※ポイント:ナレーション/図解/クイズは別々に指示/一括生成だと構造が崩れる可能性が高い
⑤ 評価設計と成果測定
・どうやって「学べたか」を確認するか(理解度テストなど)
・評価設計(基準/形式/難易度)
👍ChatGPTへの指示例:
「○○クイズは全部で○問。評定は×段階で、合格基準は△%。 問題のレベルはタクソノミーのXXレベルで、記憶の確認ではなく一定の思考を含む。クイズ形態は○×、多選選択、マッチングなど多様に。」
📌 AIは、指示の出し方ひとつで大きな可能性も、残念な結果も生み出します。設計の視点を少し意識しながらプロンプトを工夫することで、ChatGPTは“現場で使える開発パートナー”になり得ます。
いざ、使ってみよう、でも、どれを使えばいい?
簡単に使えそうだ、とわかった後に、現場のHRやL&Dが直面するであろう悩みが、AIソリューション、サービスが急増したために、どのサービスを、どういうときに利用したらいいのか、適切なツールの選定に困るということでした。
それぞれのAIサービスにどのような特徴があるのか、以下の観点で議論しました。
サービスの特徴→AIサービスの早見表
HRやL&Dの業務フェーズで利用できるAIサービスの切り口→早見表の逆引き


議論で見えてきたこと
それぞれのツールをみんなで利用してわかったことは、改めて言うことでもないですが、ツールを使って何をしたいのか、目的がしっかりと落とし込まれていないと結局は正しいツールを選択できない、ということです。
さらに教育の周辺業務でも使ってみた(キュレーション編)
eラーニングのサブスク化が進み、自分に合ったコンテンツ選びが課題となっています。弊社はコンテンツを提供する側ですので、Webカタログを構築するメタデータを保有しています。(コース名、コース目標、前提知識、学習時間、演習割合など)このデータを「添付」という形でChatGPTに与え、簡単なプロンプトのひな型をつくり検索させてみました。ピンポイントでヒットさせるためには多くのデータを与えたくなりますが、公開してお客様に使っていただくには検索時間やChatGPTリソース(無料の場合特に)とのバランスをどうとっていくのかが難しいところです。とはいえ今後特に提供側はコンパクトかつメリハリの利いたメタデータ群と、使いやすいプロンプトの提供が求められると感じました。
2025年明けてみれば
ZoomやTeamsも含め、AI機能が搭載されたツールやアプリがさらに増え、1年前よりそれぞれのアプリを使った業務のやり方が変化してきていると実感しています。
ただし、昨年度のATD24のセッションAI Meets TD: What the Future Holdsでマーカス・バーンハルトさんが発表していたように、従来の学習スタイルを実現するためにAIサービスをスタンドアロン的に使ってもAIの効果をフルに実感できず、結果としてAIに業務が奪われるという印象のみが広まってしまう可能性があります。
引き続き当スタディーグループでは、ラーニングDXを実現するテクノロジーの活用の可能性を探っていきます。
2025年6月 ATD-MNJ Learning DX スタディグループ
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