コラム:「ATD26」にリアル参加する方へ Part2:「ATD25」Learning Technologyセッション紹介
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更新日:9 時間前
さて、ATDのカンファレンスではセッションをLearning Trackでカテゴライズしています。
「ATD25」では13のLearning Trackがありましたが、私はATDのカンファレンスでは基本的にLearning TechnologyとLearning Scienceのセッションを中心に聴講することにしています。 ご多分に漏れず、ここしばらくは「AI」というキーワードがタイトルに含まれたセッションが増えてきています。
単語としての出現頻度は、「ATD25」全体では13位、Learning Scienceでは2位となりました。
「ATD26」では、更に増えてくることが容易に考えられますね。


本コラムでは、その中でも興味深かったセッションをいくつかご紹介しようと思います。
では最初にご紹介するセッションは、
Blending Creativity With AI-Advanced Story Design for Learning
Speaker: Garima Gupta/ Founder-CEO, Artha Learning Inc.
です。
本セッションでは、「AIを活用したストーリーデザイン」について、eラーニングの文脈でどのように創造性と技術を融合させるかを、スピーカー自身の体験を交えながら、ストーリーが人間同士のつながりを産み、学習をより効果的にする方法が紹介されました。

結構具体的にプロセスや手法について順を追って説明してくれました。 主要なポイントをまとめると、以下のようになります。
1. ストーリーと学習設計
・ストーリーは人間的なつながりを作る強力なツール
・教材において「ストーリー構造」を取り入れることで学習の効果が高まる
・ストーリーの基本構成要素:キャラクター・テーマ・コンフリクト(葛藤)・解決・学習目標とのつながり
2. AIが支援できる領域
・ストーリーのテーマを決める・テーマと学習目標の結びつけ・キャラクター設計(ペルソナ・アバターの作成)
・ストーリーの構造化(ブランチングシナリオ等)
3. キャラクター設計
・学習者の環境や立場(上司、同僚、顧客など)を反映した多様なキャラクターを作成
・人物像はAIを使って詳細なプロフィールや画像も生成可能
4. シナリオ作成手法
・ブランチング(分岐)シナリオを段階的にAIと共同で作成
・各選択肢とその結果を明確にし、最後にフィードバックを与える構成
・シナリオを作る際はAIに一気に依存せず、自分でアイデアを練ってからAIに補完させるのが望ましい
5. 技術的・倫理的留意点
・AIに機密情報を与える際は注意が必要(情報のスクラビングや非公開設定の徹底)
・プロジェクト管理機能(ChatGPTのprojects機能など)を活用して、素材や進行を一元管理
6. その他
・技術的なトピック(例:税務)における正確性の担保には、SME(専門家)との事前協議と段階的な承認が重要
・複数のAIモデルを使い分けて、ストーリー案や内容を比較しながら構成することも有効
次のセッションは
AI-Powered Learning Journeys: Transforming HRD for the Future
Speaker: Soohyun Chin / Lab Leader, Multicampus
Chan Lee / Professor and Board Member Seoul National University and Mutlicampus
です。
Chan Lee氏はATD Japan Summitにも登壇いただいたことがありますので、ご存じの方もいらっしゃるかと思います。
本セッションでは、「AIチューターの活用による人材育成・研修へのインパクト」を中心に構成され、実例やハンズオン体験、データ分析を交えて、AIがどのように企業学習を変えつつあるかが紹介されました。

実際にAIチューターを体験する場やデータ分析など興味深い内容となっていました。
主要なポイントをまとめると、以下のようになります。
1. AIと人材育成(HRD)における活用の可能性
・AIを敵と考えるのではなく、“協働者”と捉えるべき
・BMWの米工場でAIロボットが実際に自動車製造を支援している例を紹介
・AIには制約(データの偏り、誤情報、法規制など)があるが、人材育成分野での実用は進展中
2. HR領域におけるAIの活用実績
・AIの活用で採用コストが30%削減、マッチ精度も40%向上
・OracleのHCM(人的資本管理)プラットフォームの例や、Samsungが使っているAIチューターなどを紹介
・AIで開発期間が10日→3日へ短縮、翻訳機能で多言語化も可能 (日本語・韓国語・中国語・英語など)
3. AIチューターの利点
・即時フィードバック、対話形式の学習、個別最適化されたコンテンツ提供が可能:90万人の学習者に対して11万件以上の利用実績あり
4. ハンズオン体験
・実際にQRコードを使い、参加者がAIチューターに質問を入力する演習を実施
例:「再雇用者向けのオリエンテーションプログラムをAIで作成する」 →数分でスケジュール、アンケート、テスト項目の案が自動生成
5. 効果検証のデータ発表(2022〜2025年)
・AIチューター使用群 vs 非使用群を比較:
平均スコア:使用群82.1点 vs 非使用群73.3点・修了率:使用群82.7% vs 非使用群74.1% → 満足度:使用群の方が明らかに高い
・学習者の行動分析:
初期は要約や基礎質問が多かったが、後期は応用・実務展開が主流に
学習者が「AIに慣れる→積極活用→創造的活用」という段階を踏む様子が確認された
6. 今後の展望
・今後3年でのAIチューターの機能拡張予定:シナリオベース、AIジャーナル、自動助言機能、 スキル・インテリジェンスなど
・最終的には「AIは企業学習の中核ツールになる」との予測
つぎのセッションは
Architects of Imagination: Building Scenarios With AI
Speaker: Yolanda Larner / Director of Operations, LHT Learning
です。
本セッションでは、生成AI(主にChatGPT)を活用した「効果的なシナリオベース学習を設計・開発する方法」について解説されました。
特に「ゲート型シナリオ(Gated Scenario)」を例に、プロンプト作成、生成内容の調整、eラーニングツール(例:Articulate RISE)への組み込み方法までが実演形式で紹介されました。

このセッションもプロンプトの作成例など具体的に実演で紹介することで、実際に取り組む際のヒントとなる部分が多かったように思いました。 主要なポイントをまとめると、以下のようになります。
1. なぜAIでシナリオ生成か?
・L&D業務はタイトな納期が多く、効率化が必須
・AIはストーリーボード、プロンプト、アウトライン作成などで大いに役立つ
・特にシナリオベース学習は、実践的な知識定着に有効で、AIによる補助が効果的
2. ゲート型シナリオ(Gated Scenario)とは?
・正しい選択肢を選ばないと次に進めないシナリオ形式
・学習者が判断力を持って選択し、学習の進行を自ら制御できる
・分岐やフィードバックが重要な要素
3. ChatGPTへのプロンプト作成例とコツ
◆基本プロンプト例:
「あなたはアクセシビリティ・デザイナーです。倫理的な境界やチーム内のコミュニケーションに関する状況を含むシナリオを作成してください」
◆ポイント:
・情報を詰めすぎず、目的に合ったキーワードを明示
・繰り返し使えるテンプレート型のプロンプトを作る
・シナリオを一度作ったら、それを基にさらにゲート型の構造に変換する
4. ゲート型プロンプトにする際の工夫
・シナリオを2つのプロンプトに分ける(基本シナリオ/ゲート構造化用)
・「学習者をキャラクターとして表現」することが必須
・分岐・フィードバックのキャラクター数に上限を設けるとAI出力が扱いやすい
5. 実演:Articulate RISEでのシナリオ実装
・RISEの「Scenario」インタラクションを使用 シーン1、1.1、1.2 → シーン2…という構成でストーリーを展開
・フローチャートツール(例:Miro)で事前に設計図を描くことが推奨される
ここまで3つのセッションについてご紹介してきましたが、どのセッションでも共通して言っていたことがあります。
・シナリオを作る際はAIに一気に依存せず、自分でアイデアを練ってからAIに補完させるのが望ましい
・フローチャートツールで事前に設計図を描くことが推奨される
・AIに機密情報を与える際は注意が必要(情報のスクラビングや非公開設定の徹底)
・生成AI時代の学習者には、「情報を批判的に評価し、再構成し、表現する力」が求められる
・自分の業務のなかで「自動化できる部分」「人間でなければできない部分」を切り分けることが重要
上記をまとめると 「何でもAIに任せっきりやAIを信用しすぎてはいけない、自分がAIのアウトプットを評価し、修正・補完することができるための知識や経験が求められる」 となりますでしょうか。
以下のような課題は、日本の人材育成の現場でも既に顕在化しつつあります。
1. 基礎能力・スキルの低下(考えなくなる)
2. キャリア・成長の機会損失
3. 主体性の喪失
4. 業務におけるブラックボックス化と情報の正誤
「ATD26」では、このような問題・課題についてどう語られるのでしょうか。とても楽しみです。
最後にLearning TechnologyでなくFuture Readinessに属するセッションなのですが、内容が面白くてここ毎回参加しているセッションをご紹介します。
Workforce Readiness in the Era of AI
Speaker:Tom Stone / Sr. Research Analyst, Institute for Corporate Productivity (i4cp)
本セッションでは、i4cpというアメリカのリサーチ機関が提供する最新の研究データを基にAI時代における人材と組織の備え(レディネス)に焦点を当て、企業がどのようにAIを戦略的に活用し、Future-Readyな状態を実現するかを解説していました。

毎回、これでもかとデータに基づいたリサーチ結果を発表してくれます。
主要なポイントをまとめると、以下のようになります。
1. Future-Readyとは何か
・「Future-Readyな企業」とは、3〜5年後のビジネス目標を見据えてAIやスキル変革への準備ができている組織
・こうした企業はそうでない企業に比べて2倍の市場パフォーマンスを達成している

2. i4cpによるAI成熟度モデル
・組織のAI活用状況は「成熟度5段階」で評価
・上位層(レベル4〜5)は、AIを戦略的に業務や人材に組み込み、継続的に成果を測定している
・AIの成熟はタスク単位で設計する必要がある(例:カスタマーサクセス職)

3. Future-Ready企業の特徴
・スキルの可視化・予測・開発で3〜5倍の差
・スキルギャップの特定(48% vs 10%)
・キャリアパスの提供、スキルマッピング
・AI活用による業務時間削減は最大40%


4. Agentic AIへの備えと導入状況
・Agentic AI = ゴールを認識し自律的に動作するAIエージェント
・現在の本格導入率は5%。多くはパイロット段階(30%)
・最も導入されている部門はITと人事(70%)
・経営者のうち、準備ができていると回答したのはわずか6%
5. AI導入を成功させるための鍵
・AI導入プロセスは5段階:技術選定 → ユースケース設計 → 導入 → 成果測定 → 再配分
・多くの企業がステップ3で止まってしまう。本当の価値はステップ5にある
・成功に向けた3つの行動:
1. タスクや職務単位でAI適用を共に設計
2. 全従業員対象のAIトレーニング展開
3. マネジメント・業務設計の体制整備

「ATD26」にリアル参加されるご予定の方、i4cpのセッションはお勧めですので、ぜひ参加をご検討ください。
「ATD25」のセッションについては以上です。
Part3では、「ATD26」へリアル参加をされる方、特に初めてご参加される方へ役立てていただけるような参考情報をご紹介します。
ぜひこちらもご覧ください。 ←Part1:「ATD25」の概要と基調講演 Part3:「ICEにリアル参加する」こととは→
文・写真:ATD-MNJ理事 田辺健彦

